No.11
データヘルス計画
横山 雅子(富士通株式会社 健康推進本部)
厚労省は保健事業を効果的かつ効率的に推進するため、2013年の閣議決定に基づき2015年度からのデータヘルス計画の策定を、全ての健保組合に求めました。健保組合は健康診査の結果や診療報酬明細書等から得られる情報と各種保険医療関連統計資料を活用してPDCAサイクル(事業を継続的に改善するためのPlan(計画)-Do(実施)-Check(評価)-Act(改善)の繰り返し)に沿った事業運営をします。どういう具体的な健康支援ができるか、費用対効果を考慮して健保組合毎に検討します。
データヘルス計画第1期(2015年度から2017年度の3年間)では1395組合(99.6%)が基本情報・保健事業の実施状況・現状把握・健康課題の抽出・保健事業の実施計画を厚労省保険局保険課に提出しました。厚労省からは成績表のような「アドバイスシート」が返却されました(図)。特定健診受診率と保健指導実施率・被保険者1人あたり保健事業費・保健事業カバー率(職場環境の整備、加入者の意識づけ、健康診査等)・重点事業実施率(インセンティブプログラム、ICTを活用した情報提供、重症化予防、後発医薬品差額通知)・コラボヘルス(事業主との協働)実施率、既存事業の棚卸し・データ分析による現状把握(医療費分析・疾病別分析・健診結果の分析・特定健診質問票の分析・後発薬品の分析)・個別保健事業の実施計画・アウトプットアウトカムの設定状況について相対評価されています。初めての試みの中、健保組合も手探りで前進しています。このアドバイスシートを参考に第2期(2018年度)計画を作成することになります。
健康課題は加入者の性別・年齢・人数・職種などで異なります。各組合の規模に応じて1人当たりの医療費や医療費の特性が変化します。健保組合には医療専門職がいない場合もありますが、「高血圧や糖尿病が重症であるにも係らず医療機関受診の形跡が全くない」、「生活習慣病に関する診療報酬明細書の病名がある人は、それらの病名がない人より受診勧奨基準値以上の健診データが多い」、「入院した人の喫煙率は36%で、組合全体の喫煙率12%の3倍以上」、「入院した人の9割以上が血圧・血糖・脂質のいずれかに異常値がみられた」、「メタボリックシンドローム該当者は非該当者よりも年間9万円ほど医療費が高い」など各組合毎にあぶりだされた課題を、データヘルス計画の柱の一つであるコラボヘルスにより事業所の医療スタッフと共有します。データヘルス計画では「身の丈に応じた事業範囲」が求められています。限られた資源の中で優先順位を検討した再検査勧奨・受診勧奨・結果確認の強化などを行います。職場の指示系統ラインを活用した事業所のサポートは健保組合単独での受診勧奨より効果的に働きます。現場の保健師や産業医は「禁煙」「適正体重の維持」「節酒」「減塩」「運動」などの良い生活習慣に向けた支援を行なっています。
データヘルス計画で得られた具体的な説得力のある数値や根拠は、「ためになった」「理解した」だけではなく「実践するためにはどうするか」まで踏み込む際の説得力となります。健保組合や企業はデータヘルス計画に託された”国民の健康寿命の延伸“に貢献できると考えています。
(医学部新聞平成28年 12月号より転載)