No.10
海外勤務者の健康管理
酒井 隆 (ブリヂストン本社 産業医)
近年グローバルに展開する企業の増加に伴い、海外で勤務する社員も増加傾向を認めております。海外勤務者が心身共に健康な状態で業務に専念するために求められる「海外勤務者の健康管理」に関する産業医業務を表1に示します。
まず海外で6か月以上勤務する社員に対して健康診断(健診)の実施が義務付けられております。健診には赴任前、定期、帰任時がありますが、特に赴任前健診は産業医が渡航の可否を判断する重要な健診です。未治療の高血圧や糖尿病が発見されて渡航延期になる場合もありますし、狭心症、心筋梗塞、心不全等の器質的心疾患が存在するために渡航不可と判断せざるを得ない場合もあります。いずれにせよ本人の既往症、健康状態と現地の医療事情を総合的に考慮した上で最終的に判断する必要があります。
医療相談に関しては内科、外科、整形外科等に関する相談が入って参ります。帯同家族から産婦人科や小児科に関して相談を受ける事も多く、現地での出産の可否、安全性に関して相談される場合もあります。最近ではメンタルヘルス不調に関する相談も増加しております。言語の問題、現地労働者との人間関係、過重労働等が原因でメンタルヘルス不調に陥る社員も少なくありません。その場合まず本人と十分相談した上で日本に一時帰国させ、心療内科、精神科専門医を受診して頂き、最終的に帰任と判断する場合も多数認められます。日本に帰任した社員は次第に精神的に安定し、業務遂行能力も回復して参ります。
産業医が海外医療視察を実施している企業もあります。海外に派遣されている社員及び帯同家族と医療面談を行い、次に医療機関視察(クリニック、総合病院、大学病院等)を行います。医療レベル、医療設備、救急医療の実態等を把握して日本人が安心して受診できる医療機関か否かを判断致します。
予防接種に関しては派遣される地域、流行感染症等により、接種されるワクチンの種類は多少異なると考えられますが、一般的には発展途上国を中心としてA型肝炎、B型肝炎、破傷風、狂犬病等のワクチンが接種されていると思われます。渡航する社員と帯同家族を対象に赴任前講習会を行っている企業もあります。生活習慣病対策、感染症対策、健診の奨励に加えて、現地で推奨される医療機関(一般診療、専門医療)の紹介等が行われております。
最後にブリヂストン本社診療所における主な産業医業務を表2に提示させて頂きましたので、三四会の先生方の参考にして頂ければ幸いです。
表1 海外勤務者の健康管理に関する産業医業務
1、 健康診断(赴任前、定期、帰任時)
2、 医療相談(メール、メデイカルコール等)
3、 海外医療視察(医療面談及び現地医療機関視察)
4、 予防接種
5、 赴任前講習会
表2 ブリヂストン本社診療所における主な産業医業務
1、 健康診断(誕生月健診)
2、 内科診療(一般診療、専門外来)
3、 海外勤務者の健康管理
4、 メンタルヘルス不調者対策
5、 役員の健康診断、内科診療
6、 過重労働面談
7、 特定保健指導(メタボ対策)
8、 インフルエンザ予防接種、
9、 ストレスチェック
(医学部新聞平成28年 11月号より転載)